カスハラ対応方針を作り、社内のマニュアルも整えた。それでも、電話を受けている担当者が「この電話はどこで切ってよいのか」「上司に代わってもらう合図はいつ出すのか」と迷う場面は残ります。方針が決まっていることと、電話口でその方針どおりに判断できることは、同じではありません。

防止措置の義務化(2026年10月1日施行)の直前に、公益社団法人 消費者関連専門家会議(ACAP)が公表した「カスタマーハラスメントに関する実態調査(2026年度)」は、この差を数字で示しています。会員企業・団体の消費者対応部門等を対象にした調査で、2024年度調査との比較も載っています。

この記事でわかること

  • 調査の対象と、数字を読むときの注意点
  • 方針・マニュアルの整備と、判断基準の明文化・運用の割合の差
  • 顧客対応の窓口として電話が占める位置と、電話でカスハラ対策を知らせている割合
  • 事案が起きたときに「記録」と「対応の中止」がどこまでできたか
  • 電話窓口で基準を動かすために確かめたいこと

調査の対象と読み方

調査は2026年7月3日から7月29日に行われ、ACAP正会員企業460社・団体のうち264社・団体が回答しました(有効回答率57.4%)。ACAP自身が「全国の企業一般を代表するものではない」と注記しているとおり、消費者対応に継続して取り組んでいる企業・団体の回答です。対策の実施率は、一般の企業より高めに出ていると考えて読むのが妥当です。

裏返せば、消費者対応に継続して取り組んでいる企業・団体でも、この水準にとどまっている項目がある、という読み方ができます。

方針は8割近く、判断基準の「明文化し運用」は半数前後

対策の実施状況(Q12)を2024年度と比べると、「カスタマーハラスメント対応方針を作成している」は33.8%から76.1%へ、「対応マニュアルが作成できている」は34.8%から67.1%へ上がりました。「長時間対応の限度となる目安時間を設定している」も52.0%から65.5%に増えています。10項目すべてで2024年度を上回りました。

ただしACAPは、この「実施中」は仕組みの有無を示すもので、運用の質や実効性を直接評価したものではないと断っています。そこで別の設問(Q15)では、判断基準ごとに「明文化し運用」「明文化しているが運用不足」「口頭慣行で共有」などに分けて尋ねています。「明文化し運用」の割合は次のとおりです。

判断基準(Q15)明文化し運用
長時間対応の目安時間44.8%
同一内容の繰り返し連絡への対応基準41.8%
対応を中止(今後一切の対応を行わないこと)する基準39.7%
警察・弁護士等に相談する基準33.9%

設問が違うため、Q12の65.5%とQ15の44.8%を単純に引き算することはできません。それでも、目安時間について「明文化し、運用している」と答えたのは半数に届いていません。電話が長引いたときに担当者が拠りどころにする基準ほど、紙の上と現場の間に距離が残っていることがうかがえます。

電話はほぼすべての窓口、電話で方針を伝えるのは2.9%

顧客対応で使っているチャネル(Q6)は「電話」が98.5%で最も高く、問い合わせフォーム87.5%、メール72.3%が続きます。長時間の拘束や、電話や来店を繰り返す行為も、経験した迷惑行為として多く挙がっています(Q11で「長時間の拘束」76.2%、「電話や来店を繰り返す行為」51.3%)。

一方、カスハラ対策の方針を顧客・消費者にどう知らせているか(Q20)では、「自社Webサイトに掲載している」が66.0%だったのに対し、「電話音声ガイダンスで案内している」は2.9%でした。ほとんどの窓口が電話を使っているのに、通話の中で方針を伝える手段として挙がっているのは、音声ガイダンスのほかには「個別対応時に必要に応じて説明している」(12.9%)程度です。

Webに掲載した方針を、電話をかけてきた人が事前に読んでいるとは限りません。通話の冒頭で録音や方針をどう知らせるかは、担当者ひとりひとりの言い回しに任せるか、電話の仕組みの側で揃えるかを選べる部分です。IVR(自動音声応答)の案内文の組み立てはIVR(自動音声応答)の作り方と注意点で扱っています。

記録はできても、対応の中止は難しい

直近1年間に事案が起きたときの対応(Q18)を「十分に実施できた」で見ると、「記録・録音・録画・時系列整理」が53.2%で最も高く、「対応の中止」は35.4%でした。「一部実施できた」を合わせると、記録・証拠化は81.0%、対応の中止は67.1%です。

記録を残すことに比べて、対応を打ち切ることのほうが実行しにくい、という結果です。調査はこの差の理由を示していませんが、中止は相手とのやり取りを断つ判断で、担当者ひとりでは決めにくい性質を持っています。中止の基準を書いても、電話口でその基準に当たったかどうかを判断し、上長の了承を得て切るまでの流れがなければ、基準は使われないまま残ります。

電話の仕組みで支えられるのは、この流れのうち「一人で判断させない」部分です。上長が通話を聞き、担当者にだけ助言を伝え、必要なら通話に加わる手順はスーパーバイザの介入でオペレーターを守るで紹介しています。後から判断を検証できる記録の残し方はカスハラ対応の記録・証跡の残し方で整理しています。

一次受付を委託しているなら、基準の共有は4割にとどまる

法施行に向けた準備状況(Q14)で、多くの項目が「完了済み」と「9月末までに完了予定」を合わせて8割前後に達するなか、一次受付を外部に委託している場合の委託先との対策共有は40.3%でした。

電話の一次受付をコールセンターや代行会社に任せている会社では、目安時間や中止の基準を自社だけで決めても、最初に電話を受ける人が同じ基準で動いているとは限りません。基準を共有するときは、文書だけでなく、委託先で通話が録音されているか、方針の案内をどこで流しているか、上長への引き継ぎをどの番号で受けるかといった電話の側の条件も、あわせて確かめておくと食い違いを見つけやすくなります。

電話窓口で基準を動かすために確かめたいこと

調査の数字を自社に置き換えるなら、次の順に確かめると抜けが見えやすくなります。

  1. 目安時間と中止の基準は、文書になっているか。口頭の慣行で済ませていないか。
  2. 数え始めと判断の担い手は決まっているか。目安時間をどの時点から数えるか、中止を誰が了承するかが書かれているか。
  3. 電話をかけてきた人に、方針や録音をどう伝えるか。Web掲載だけでなく、通話の中でどう知らせるかが決まっているか。
  4. 一人で判断させない手段はあるか。上長が通話の状況を把握し、助言や交代ができるか。
  5. 委託先と同じ条件で動いているか。基準の文書に加え、録音や案内、引き継ぎの経路が揃っているか。

まとめ

ACAPが2026年9月25日に公表した調査では、カスハラ対応方針の作成は76.1%、目安時間の設定は65.5%まで進みました。その一方で、目安時間を「明文化し運用」しているのは44.8%、対応を中止する基準は39.7%でした。電話は98.5%の窓口で使われていますが、電話音声ガイダンスで方針を伝えているのは2.9%にとどまります。事案が起きたとき、記録は81.0%ができた一方、対応の中止は67.1%でした。

いずれも、方針や基準の有無より、電話口で判断が回るかどうかの差として読めます。VoiceLine PBX クラウド版では、IVRや通話録音などの基本機能に加え、カスハラ対策のオプションで管理者への通知や傍聴・ささやき・割込を組み合わせられます。自社の基準を電話の運用にどう載せるかは、お気軽にご相談ください。

出典

  • 公益社団法人 消費者関連専門家会議(ACAP)ACAP研究所「カスタマーハラスメントに関する実態調査(2026年度)」2026年9月25日公表 報告書PDF(Q6、Q11、Q12、Q14、Q15、Q18、Q20)/要旨PDF/ニュースリリース

本記事の数値は同調査の報告書によります。調査はACAP正会員企業・団体を対象としたもので、全国の企業一般を代表するものではありません。